2017.06.30「土佐い草」を知っていますか?

「土佐い草」を知っていますか?

土佐市にある水田地帯。そこに見慣れない植物を目にしました。お米の稲とは異なる細くて真っ直ぐな姿。実はこれ、畳の材料となる「い草」なんです。今回は、日本でもごく僅かとなってしまったい草農家さんに、い草を育てる魅力や思いをうかがってきました。

 今回い草農家さんへの取材をお膳立てしてくださったのは、土佐市観光Styleさん。町への思いを生み育む活動の一環として、毎年夏にい草の圃場見学ツアーを開催しており、土佐い草を使ったオブジェの考案・販売も手がけていらっしゃいます。
 土佐市には現在3軒のい草農家が残っていますが、今回お話をうかがったのは親子三代で、い草一筋に向き合ってきた野村和仁さんです。

い草農家・野村和仁さんに聞く!

article089_01.jpg土佐市のい草農家・野村和仁さん。お若く見えて60代!

野村さんご一家がい草の栽培をはじめたきっかけは?

 戦後、親父が農家として何を育てていくか考えている時に、高知県が「い草」を推奨していたんです。戦火で家が焼かれて、新しくたくさんの家を建てなければいけない時代で、畳、つまりい草の生産需要も多かった。高知県はい草の大産地で、い草を乾燥するためだけの施設も生まれるなど、ビッグビジネスだったんですね。親父はい草栽培の先進県だった福岡で基礎知識を学び、土佐市での栽培普及活動も担っていました。

article089_02.jpgお父さんの野村和喜さん。90歳を超えた今も仕事を続けています!

しかし今、高知県に残っているい草農家さんは、土佐市にある3軒だけになってしまいましたね。

 需要があるものだからコストが安い場所でい草を栽培したら…という動きになって、海外での生産が盛んになっていったんです。昭和60年ごろから、国内のい草農家は減少していきましたね。

和仁さんは、なぜい草農家を継ごうと決めたのですか?

 僕自身は器用だったこともあって、エンジニアとか色んな仕事の誘いがあったんですが、長男ですので親父から「お前は百姓をやれ」と言われ続けていました。でも、最終的に決めたのは、親父の常に戦いゆう姿勢に共鳴したからかな。他にいい作物があるのになぁと思うのに、親父は諦めん。世の中には挑戦する前に諦めて「他に何かないか」とキョロキョロする場合が多いけんど、親父は目線がパシン! と一つに定まっちゅう。世の中的には間違えちゅうのかもしれんけど、僕には正しく見えたんよね。それには勝てんと思うた。

article089_03.jpg野村さんのい草が育つ圃場。6月は腰ぐらいの高さですが、収穫時期には背丈ほどの高さまで伸びます

和仁さんがい草を育てて実感したご苦労はありますか?

 い草は弱い植物なんです。周囲の環境の影響を受けやすく、なかなか満点のい草がとれんき、ますます嫌になってやめていく人が多い。僕自身もいまだに難しいし、失敗もします。
 昔は周りのみんなもい草を育てよったから、色々な情報が集まってきよったんですが、今は農家が少ないから情報もない。気象条件も昔と大きく変わってきて、昔ながらの農法では障害が出てくるようになった。勉強しようと思い、い草農家が多い九州へ行って情報を集めるんですが、やはり高知とは環境の条件が違うから失敗するんです。
 ただ、九州のい草農家は一生懸命努力しゆうことは確かですから、自分も頑張らんといかんと思う。
 それに誰も知らんがやったら何をやっても正解やろうと、ある意味開き直って色んなチャレンジをしています。

どんない草を育てたいと思っていますか?

 色むらがなく、筋の揃ったい草。その収量が良いことが理想ですね。い草の色は、育てる農家によって微妙に違うんですよ。九州は緑色の濃いい草が多いんですが、私は淡い緑色というか…まさに「仁淀ブルー」みたいな色のい草を育てたいと思っています。

article089_04.jpg収穫後のい草は、農家さんの下で乾燥や泥染といった作業をします。

育てるのが難しく、収穫後もいろいろな手間をかける必要があるい草。現代では需要も少ないと思うのですが、なぜ和仁さんはい草を育て続けるのですか?

 い草文化の最後がどうなるのか…それを見届けたい。そして、それはやり続けてないと見れんものだと思う。最後がどうなるかと興味を持つぐらい「魅力がある」ということでもありますね。
 それに、僕は生まれも育ちも高知の根っからの地方人。周りには常に東京に憧れゆう人も多かったけど、「高知を一番にしたい」という気持ちがあって、それは他人ではなく自分がすべきことだと思いよった。僕はい草の生産面積では一番になっちゅうき、あとは品質でトップに立てば総合一番になれる。あともうちょっとなが! それを目指す中で、自分の刺激になれば良いなと思って、土佐市観光Styleさんの企画にも参加しゆうんです。

article089_05.jpg品質の良いい草を目指して、和仁さんのチャレンジは続いています。

い草を知れば、価値観が変わる!?

 い草は、水田に氷が張るほど寒い時期に苗を植え、真夏の暑い時期に収穫が行われています。育てるにはなかなかハードな作物ですが、うまく育つと他の植物にはないツヤツヤの輝きが生まれ、夏の風にたなびく圃場の美しさは一見の価値があります。
 そこで!ぜひおすすめしたいのが、土佐市観光Styleさんが企画している見学ツアー。毎年7月の収穫時期に合わせて開催されるもので、い草の圃場やその収穫風景を見学でき、小物を作るクラフト体験なども楽しめる盛りだくさんな内容となっています。

article089_06.jpg見学ツアーでは、い草の基礎知識や収穫までの流れを分かりやすく解説。
article089_07.jpgい草の爽やかな香りが楽しめるオブジェを作るクラフト体験も楽しめます。

 案内人である合田裕子さんは、ツアーを企画する真意をこう教えてくれました。

 「ただ畳やい草が売れればいいという考えではなく、土佐い草を育て続けている背景を分かってもらいたい。そこには和仁さんのお父さんの思いがあり、和仁さん自身の信念もある。私たちはそれを【野村イズム】と呼んでいますが、それを知ることでツアーに参加された方も新しい価値観を得ることができると思うんです」

 いやー、深いです、土佐い草。でも、決して難しい話ではありません。大人にも子供にも知ってほしい、土佐い草のことと、農家さんの思い…。ぜひあなたの目で!耳で!それを感じてみてください!

(仁淀ブルー通信編集部員 高橋さよ)
●今回の編集後記はこちら 

土佐い草についてもっと知りたい人はこちらへ
【土佐市観光Style:土佐い草について】
https://www.tosa-k-style.org/tosaigusa

【見学ツアーについてのお問い合わせ】
2017年は7月17日(月・海の日)と23日(日)に開催決定。定員は先着5名。お早めにご予約を。
土佐市観光Style
電話:050-8809-5739