2017.05.19仁淀川生まれのイシガメ、川に帰る
かわいくてかわいくて思わず連れ帰った仁淀川生まれのニホンイシガメ。ひと冬一緒に暮らしてみて痛感したのは「野生は野生に返すべき」。生き物たちの妥協しない厳しい営みの一端でした。
去年の11月3日〜11月6日に行われた高岡郡越知町の町民参加イベント「越知 おいしいキャンプウイーク」の期間中、子供たちの人気ナンバーワンだったのが「仁淀川移動水族館」。児童文学作家の阿部夏丸さんと野生生物研究家の奥山英治さんがプロデュースした高知初の画期的なイベントだった。
カワムツ、オイカワ、モツゴ、ムギツク、カマツカ、タナゴなど通常は「雑魚(ざこ)」と十把ひとからげにされてしまう小魚たちが水槽で元気に泳ぎまわる。「アユやアマゴのほかにも、こんな魚たちが仁淀川にいるなんて知らなかった」と、その意外な美しさに子どもたちだけでなく親たちも驚いていました。
水槽におさまらないコイ、ナマズ、スッポン、クサガメ、イシガメたちは即席タッチ水槽となったバケツにそれぞれ入れられて、子どもたちの人気スターになっていたが、仁淀川の生物多様性を目の前で見て触ることができるステキな水族館でした。
さて。そこで子どもたちにいじめられて、じゃなかった触りまくられて(笑い)ややグロッキー気味だったニホンイシガメの一匹をわが家に持ち帰った。体長は12,3cmほど、奥山センセイによれば年齢は5歳くらい。卵から孵した2匹のニホンイシガメを私の不注意がもとで3年ほど前に死なせていて、その贖罪の気持ちも少しはあったかもしれません。が、とにかくかわいくて衝動的に連れて帰ってしまったというのが正直なところ。
自然状態ではそろそろ冬眠の準備に入るころでしたが、奥山センセイの助言もあって室内で冬を越させることにしました。いままで4回くらいは冬眠を経験しているはずですが、ヒーターで水温を23度くらいに保ちエサを毎日やり続けると、冬眠を忘れたかのように45cm水槽の中を毎日元気に泳ぎ回ります。
意外だったのは前のカメたちが大好物だった配合飼料には見向きもせず、フリーズドライの川エビと乾燥イトミミズばかりを食べる極端な偏食。やっぱり野生育ちは自然食品由来のエサを体が覚えているんだなと妙なところで感心したものでした。
「野生」を思い知らされたのがもうひとつ。いくら世話をしてやってもちっとも私になつかない。水槽に近づくたびに怯えて大騒ぎする。毎日1回の水替え、2回のエサやりにもまったく感謝の気持ちをあらわさない。前のカメは私の顔を知っていて、近づくと手と足をバタつかせて愛嬌を振りまいてくれたのに…。
人間の勝手な都合で仁淀川から拉致してきたことに全身で抗議しているようで、だんだん後ろめたくなってきました。で、仁淀川の水温がぬるむころに川に帰してやろうと思い立ったというわけです。
どこで放そうかと思案の末、越知町ではなく、私がいつもヘラブナ釣りで通っているもっと下流のいの町で放流することにしました。5月のGW前の平日とあって河畔に人影はなく、ときおり水面にブラックバスが小魚を追い回す波紋が広がるだけ。遠くから川面を渡るウグイスとコジュケイの鳴き声、近くの梢からはコゲラのさえずりが聞こえるのどかな朝です。水温をはかると20度を超えています。
「もう大丈夫だろう」と、バケツに入れて運んできたイシガメを足元の水辺に。
落ち葉がいっぱい堆積した水際はふかふかしていていかにも居心地がよさそうです。「ひと冬の楽しみをありがとう」と心の中で声をかけて小さな甲羅から手を放してやると、イシガメは一瞬だけ戸惑ったように周囲を見まわし、私の顔をじっと見たあと(私の勘違いかもしれないけど)、4本の手足をゆっくり動かし悠然と仁淀川の水中に消えていきました。
(カメ好きの仁淀ブルー編集長 黒笹慈幾)
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