2016.12.09仁淀川で湯めぐり旅・1・かんぽの宿伊野

仁淀川で湯めぐり旅・1・かんぽの宿伊野

下流から上流へと、「仁淀ブルーを旅する・冬バージョン」を始めます。テーマは温泉。いろんな仁淀川の風物にも出会える湯めぐりの旅、温まりますよ~

温泉だけじゃあもったいない、伊野の旅

「塩味の温泉がある、しかもそれは、太古の海の記憶である」なんていう、地球歴史ロマン的な情報を聞きつけ、やってきたのが『かんぽの宿伊野』。まるでヨーロッパの古城のようなロケーション(川辺の高台)に、全室リバービューと、仁淀川ファンなら一度は泊まっておくべき宿の一つでありましょう。塩味の温泉はその大浴場にあるのですが、その前にちょっと待った!

article_06002.jpgかんぽの宿伊野(写真提供:かんぽの宿伊野)

「喉カラカラにして、カキーンと冷えたビール」であるように、「まずスープを味わって、麺を」であるように、「ひと汗かき、それから温泉」が私のこだわり。というわけで、かんぽの宿伊野の対岸、伊野の町歩きに出かけてみました。

article_06003.jpg伊野の町並み

伊野といえば和紙の町。江戸時代から町は発展しはじめ、明治時代には土佐典具帖紙(てんぐじょうし)やトレーシングペーパーといった薄紙の生産で大いに栄えました。当時をしのばせる豪勢な古民家が今も町並みに点在しています。手仕事による建築の妙を探して、大国町、元町、本町、藤町と歩いてみました。

article_06004.jpgかつて紙問屋だった町家。
article_06005.jpg水切り瓦(白壁にある小さなひさし)は、風雨から壁を守る知恵。

article_06006.jpg緻密な格子が美しい。
article_06007.jpg和と洋の出会い。

家のなかはどうなっているのだろう? と思いながら旧市街の外れまできたところで、玄関を開けている古民家が。品のよいお母さんが招き入れてくれました。中に入ってびっくり! 張り子でしょうか、干支でしょうか、手のひらにのる小さな人形がたくさん並んでいました。
聞けば、ここ「草流舎」は人形作家・田村雅昭さんのギャラリー。平成28年の年賀切手(82円)の絵柄は「張り子の申」でしたが、なんと田村さんがその作者なのでした。田村さんの奥さま、多美さんがいろいろと説明してくださいました。

article_06008.jpg土佐漆喰で作った干支。草流舎にて。

「張り子のほうは、和紙を9層重ねています。最後の1層の和紙は雁皮紙(がんぴし)なんですよ。裏から彩色して、それを貼ってますから、柔らかい印象でしょう?重たいほうのお人形さんは土佐漆喰で出来てます」
田村雅昭さんはこの冬、いの町紙の博物館で個展を開くそうなので、ぜひご覧あれ。

◆「2017・草流舎 素朴な干支と縄文のプシュケ」展
12/17(土)~1/9(月) 9:00~17:00 いの町紙の博物館

article_06009.jpg草流舎は営10:00~16:00、水曜休み。

人形だけでなく、この古民家の柱や梁、建具にも目を奪われました。築101年だとか。さぞ巨樹だったのだろう柱や梁、緻密な建具……これほど素晴らしい手仕事が、かつては日常だったのか。人間の能力の素晴らしさを高らかに歌うこの家ですが、修繕にお金がかかりすぎるため、5年後ぐらいには解体するかもしれないとのこと。もったいないなあ~。


とまあ、なんだかんだと2時間ほど町歩きしたので、そろそろいいでしょう。ああ、湯が呼んでいる!

大浴場で、裸の解放感を満喫

かんぽの宿伊野に入ってすぐ左に、日帰り入浴券の自販機があります。なんとタッチパネル式。ここで券を買ったら2階へ。脱衣所がとても広い!と感心ながら浴場へのドアを開けると、こっちはもっと広い!『大は小を兼ねる』は温泉にも当てはまりますな。もちろん鄙びた小さな温泉と湯船もいいのですが、「どうだ、いま俺は裸だ、肩書きもこだわりも立場もすべて脱ぎ捨てたぞ!」という解放感は大浴場ならではでしょう。裸でうろうろできる空間なんて、あまりないですから。いや~気分がいい。


見渡すと、いろんな湯があることに気づきます。メインの湯船に加えて、泡風呂、寝湯、打たせ湯……歩き湯ってなんだ? それから露天風呂。かけ湯があったので、ちょいとひと舐め。確かに薄く塩味がします。源泉は地下1200mだとか。太平洋プレートが西へと移動して行って隆起したのが今の高知県。湯の塩味は、ここが海底だったころの名残なのでしょう。

article_06010.jpgかんぽの宿伊野の仁淀川伊野温泉(大浴場)

まず大浴槽、そしていろんな湯船を楽しみながら気づいたのが、お尻の感触。大浴槽の底は、褐色で不定形の岩を平らにしたもので、少しザラリとした感触。自然を感じさせてくれます。一方、寝湯は小さなタイル、泡風呂はつるりとした大きなタイルと、いろんな肌触りが楽しい。そうそう、湯船によって適温やぬる目があって、私のように湯アタリしやすい人間には優しい温泉です。


ではいよいよ露天風呂へ。こちらの湯船は青石のタイル。青石は仁淀川でおなじみの石です。そして露天風呂を囲む壁は石灰岩の石積。それはまるで、仁淀川流域の棚田や段々畑で目にするような石の積み方です。なんだか、ふる里への誇りが伝わってくるなあ。

article_06011.jpg露天風呂(写真提供:かんぽの宿伊野)。

湯船につかって見上げれば、冬の太平洋側らしい、薄く紫がかった青空。ほてった頬に、川を渡ってくる風が心地いい。仁淀川を感じながら、素っ裸で、青空の下。いつまでもこうしていたいが、最後に打たせ湯でしめるとするか。この夏、安居渓谷の「飛龍の滝」を浴びながら川遊びしたけれど、あの時の感触を思い出させてくれるかな?

article_06012.jpg仁淀川の眺めが抜群の、かんぽの宿伊野。

かんぽの宿伊野 仁淀川伊野温泉
泉質:ナトリウム-塩化物泉
日帰り入浴:500円(12歳以上)、300円(6歳以上12歳未満)
利用時間:11時~21時(20時受付終了)。※繁忙期間中は~16時(15時受付終了)

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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