2016.10.14かくまつとむさんのワークショップに参加しました!

かくまつとむさんのワークショップに参加しました!

仁淀ブルー通信の連載でもおなじみのかくまつとむさんが、仁淀川流域の観光や地域おこしに関するワークショップを開いてくれました。参加者の思考を大いに刺激したその模様をお届けします。

ワークショップは、我が黒笹編集長による、かくまさんの紹介から始まりました。
「BE-PALというアウトドア雑誌の仕事を通じて、僕とかくまさんとの付き合いはもう30年ぐらいになります。出会いはこんなおじいちゃんになる前で、二人とも若かった~(笑)。彼は民俗学や野外活動系の取材者・ライターとして長らく活躍されていて、その分野の第一人者。知見のかたまりです。全国津々浦々に通じていて、仁淀川との付き合いも20年以上。かくまさんの話をきっかけに、地元の人が価値を見出していないものについての気づきがあると思います。今日は、彼の豊富な経験の中から、仁淀川流域に関係しそうなことを選んで話していただきます。ではかくまさん、お願いします」

article_05202.jpgかくまつとむさん

この日のテーマは、『〈地域資源〉を再考する~生物多様性の視点から~』。
地域の活性化を論じるとき、「ないものねだりより、あるもの探しをしよう」と地域資源を見直したりしますが、「では、あるものって何?」となりますよね。地域資源には『暮らし』とか『産業』とかいろいろありますが、そのなかで『自然』というのはすごく漠然としています。
今回は、自然の何が地域資源になるのか、それを生物多様性の視点から考えてみようということらしいのですが、なにやら難しそう……

ウームと身構えていたのですが、かくまさんは突然クイズを始めました。
「いま日本には9000種類ぐらいの植物があります。このうち、農作物や園芸種などを除き、食べられるものは何種類でしょう?」
答えは約600種。
「では、人の暮らしに役立つ植物は何種類?」
それはなんと、約9000種!
「どんな植物でも、肥料にはなります。植物に『役立たず』はないんですね。そして日本は植物立国で、昔からいろんな利用をしてきました」

そして木の話に。
住宅の骨組みや家具、道具、器など私たちの暮らしに木は欠かせませんが、それらは木のどの部分をどんなふうに製材した材木から作られているかを、かくまさんは解説していきます。
「例えば柾目(年輪が平行)に製材された板ですが、これは通気性がいい。なので、おひつに使われます。中に入れたご飯が蒸れないんですね。板目(年輪が山形や筍形)の板は逆に水分を通しにくいので、味噌や醤油樽に使われています」
一口に材木といっても、どの部分をどのように加工するかで異なる特徴になり、その特徴に応じて日本人は物つくりをしてきたとかくまさん。なるほど、適材適所といいますが、〈材=人材〉ではなく〈=木材〉なのだなあ。
適材適所は製材方法だけでなく、木の種類の選び方にもあてはまるようです。話は、様々な木とその使い道に移っていきました。

article_05203.jpg臼にはケヤキ、にはワケがある(写真提供:かくまつとむ)

「イチョウは水をよく吸う木で、乾かすと脆いため建材としては無価値です、しかしまな板や、着物の洗い張り用の板としては素晴らしい。水分をよく吸うからです」
「重くて堅いケヤキは、餅つきの臼に。粘る餅に引っ張られてもびくともしませんから」
「ミネバリという木は成長が遅く、年輪が細かくて、木質は緻密で堅い。そのため繊細な加工ができるので、櫛の材料に。木曾のお六櫛などが有名ですね」

article_05204.jpgシュロの皮は箒にもなる(写真提供:かくまつとむ)

他にも、クスノキ(彫刻しやすいので仏像に)、トチノキ(サクサクと削りやすいのでこね鉢に)、キリ(下駄やタンスに)、ウバメガシ(建材には不向きだが、備長炭になる)、シュロ(皮が水に強いので、舟のもやい綱などに)など、日本の山や田舎で普通に目にする木の特徴と使い道を説明していくかくまさん。
なんだか材木商になるためのワークショップみたいだ……と思いながらも、私は、どんどん思考を促されている自分に気づきました。
私などは、プラスチックや化学繊維などの工業製品に囲まれた暮らしが長いため、「森林資源は?」と問われてすぐに思い浮かぶのは社会科の教科書で習った杉や檜ぐらい。でもこれは、自然に囲まれた地域に暮らす人も同じなのかもしれません。
自然を大いに活用してきた歴史や文化、人間に出会い、学ぶことがなければ、「自然のどんなところが豊かなの?」という問いに、具体的に答えられないのではないか。

article_05205.jpg奄美大島のカニ獲り名人(写真提供:かくまつとむ)

かくまさんは「食」の地域資源についても話してくれました。マングローブ林の泥の中かからノコギリガザミを捕まえるおじさんのこと。猛毒の蛇・ハブでハブ酒を作り大儲けした人の話し。クロスズメバチを追いかけて巣を突き止めて掘り出し、巣の中にいる幼虫や蛹を獲るという『スガレ追い』では、「みんなハチを追うのに夢中で、後期高齢者が山の斜面をダッシュで登っていました」と、それを見たときの衝撃を語ってくれました。
「自然を知っている人は、人を楽しませるソフトを持っていますね。また自然を相手に、生きがいになるくらいの、実におもしろい遊びをしています」

article_05206.jpgクロスズメバチを追って、おじいさんは山を駆けた!(写真提供:かくまつとむ)
article_05207.jpgスガレ追いの収穫。幼虫や蛹を醤油と砂糖で煮漬ける。酒の肴や炊き込みご飯の具に好まれる(写真提供:かくまつとむ)

そんなかくまさんの話を聞きながら、私なりに導いた答えは、『自然という地域資源を掘り起こして活用するには、自然だけでなく、自然とつながる人が(もしくは、自然と繋がっていた頃の記憶を取り戻すことが)必要なのだ』ということ。自然を活用する人が地域にいれば物語が生まれ、その物語に興味を持った人が旅人となって訪れてくるのではないか。豊かな自然があるだけでは、美しさに感激したり癒されたりはするけど、自然や地域の魅力の『深さ』に気づくことなく、次第に飽きられるのではないか。

さて、ワークショップの終盤では、成功している地域おこしイベントの例として、かくまさんは『おんぱく』を紹介。おんぱくとは、2001年に別府市で開催された温泉泊覧会(略してオンパク)がその始まりで、その後、温泉泊覧会のノウハウを利用して日本各地で開かれるようになりました。
その特徴は、地域資源を活用したり、すでに個別にやっている通常のイベントも動員して、小規模でたくさんの体験交流型プログラムを短い期間に一斉に行うこと。また、あくまでも地域の人たちが主体的に取り組んでいくことが成功の鍵だといわれています。
これを仁淀川流域でやってみては、という提案でした。実現すれば、「今だけ、ここだけ、あなただけ」なイベントが目白押しになりそうです。

article_05208.jpgワークショップ参加の面々

最後にかくまさんから宿題が。「仁淀川流域でおんぱくを開催するとして、仮想のプログラムを作ってください。一人あたり3プログラム以上お願いします」
がんばれ、仁淀ブルー通信編集委員のみなさま! そして仁淀川おんぱく(仮)実現のため、かくまさん、これからもよろしくお願いします。

(仁淀ブルー通信編集部員 大村嘉正)
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