2016.06.10仁淀ブルーを旅する・1 「筒上山登山記」
仁淀川と人が「一つ」になれる旅はいかが? 今回から始まる連載旅コラム、まずは仁淀ブルーが生まれる場所から始めてみましょう。いざ”ブルー”の始まりへ。
生まれたてのせせらぎでのどを潤し、清らかな流れに浮かんで漂えば、私たちのなかで何かが変わっていきます。コトの発端は使い古された登山地図。それは30年前のもので、西日本最高峰・石鎚山の峰々を網羅しています。その色あせた地図の片隅にある、青色の○で囲まれた「水」マークにふと目が留まりました。記されているのは筒上山の頂上近く。そして「水」マークを南に下っていけば「安居川」という文字が。
仁淀川水系に「仁淀ブルー」と呼べる透明な流れはいくつもありますが、安居川といえばその代表格の一つ。つまり、筒上山に行けばその最初の一滴に出会えるかもと、今回の登山を思い立ったしだいであります。
石鎚山系の南部にある筒上山(1859m)は、石鎚山への主要登山ルートからはずれているため訪れる人は少なく、秘境の雰囲気が濃厚です。石鎚国定公園では最も自然が残された山域だと言われています。
登山口は、いの町の町道瓶ヶ森線(UFOライン)または県道40号線(石鎚公園線)を西に走った終点の土小屋。ここが海抜1492mなので、筒上山までの標高差は約360m。しかも、いくつもの峰を登ったり下りたりする必要はなく、地図を見る限り、登山ルートは穏やかな傾斜の山肌を横断しながらゆっくりと高度を上げていくようです。そして登山口から山頂までのコースタイムは2時間15分ぐらい。こりゃあ楽勝だなあと思っていたのですが……
安居川や土居川、面河川など、仁淀川水系の源流の多くがこの山域に集まっています。その渓谷を見おろす山なみを覆うのは、人間がこの地にやって来るよりもはるか昔から生息していた植物たちの末裔。杉・檜の植林地など人が手を加えた森とは比べ物にならぬくらいたくさんの命が絡み合い、しかも美しく調和している森です。私がいま眺めているのは、いわば神のなせる技が生み出した世界なのでしょう。
そんな「神の森」は雨粒を受けとめ、自身の落ち葉や枯れ枝や先祖の亡骸が積もった大地で濾過し、湧水として地表に吐き出します。それが、太古より続くこの森の日常。仁淀ブルーというのは、人間によってかき乱される前の自然の姿を伝える色なのかもしれません。
先ほどの鎖場を降りるのは危険なので、帰路は山頂から北へ延びる稜線を下っていきます。登山道がヤブに覆われて判りにくい箇所が多いので迷わないように注意。赤テープを目印に下っていきます。
ところで、地図に記載された筒上山の水場ですが、残念!枯れていました。安居川の最初の一滴でのどを潤すことには失敗しましたが、筒上山への道すがらには湧水が数ヶ所。その流れは面河川となり、仁淀川になります。海にたどり着くまで、いく日かかり、どれだけの生命を育むのでしょうか。
途方もなく年齢を重ねた森からのプレゼントを受け取った私は、足だけでなく気持ちまで少し軽くなって、再び歩き始めたのでした。
★筒上山登山ガイド
・筒上山へのルートには、危険な岩場、崖、不明瞭な登山道があります。山に不慣れな人は、信頼できる登山経験者と一緒に登ることをおすすめします。
・春~秋の石鎚山系では、黒いコバエのような虫が多数飛んでいます。そのなかには吸血するブユも混じっているので、虫除けの薬は必携。
・地図/山と高原地図54「石鎚・四国剣山」1,080円
・登山口(土小屋)へのアクセス/高知県側からだとマイカー利用のみ。高知自動車道いのICまたは大豊ICから約2時間
・筒上登山で宿泊するなら、以前仁淀ブルー通信で紹介した「山荘しらさ」や「農家民宿柊」がおすすめ。
・山荘しらさ
・農家民宿柊
(仁淀ブルー通信編集部 大村嘉正)
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