2015.09.30リレーエッセイ「私と仁淀川」 阿部夏丸(作家)

リレーエッセイ「私と仁淀川」 阿部夏丸(作家)

 15年も前の話だが、いの町に家を借りたことがある。『カワウソがいる』 (ポプラ社刊) 」という本を書くためだと女房・子どもを説得したのだが、実際は川遊び三昧(笑)。昼間は川に潜りアユ、チチブ、ボウズハゼを追いかけ、夕方は日が落ちるまで、蚊がしら釣り。夜は夜で、ウナギ、ツガニにテナガエビ。おまけに海が近いものだから、仕事どころか、休む間もなかったのを記憶している。上の写真は『カワウソがいる』2004年ポプラ社刊、挿画と挿絵は沢野ひとし。

 一番の記憶は、仁淀川で釣りをする僕の前にうつぶせになった子どもが流れてきたこと。はるか上流から流れてきた彼は、時折、水に潜り、魚を追いかけ、また、ぽっかりと浮かび、そのまま、何キロも下流に流れていってしまった。これほどスケールのでかい川遊びは見たことがない。衝撃だった。
「いいか。いい川には、たくさんの魚が泳ぎ、真っ黒に日焼けした子どもが流れてくるんだ」
そんなわけで僕は、今でも講演会で大好きな仁淀川の話を、必ず口にするのである。
●今回の編集後記はこちら

article011_img01.jpg川ガキがそのまま大きくなるとこんな大人になるという見本です。阿部さんに狙われた魚たちはぜったいに逃げ切れません。
◆阿部夏丸(作家)
1960年、愛知県豊田市生まれ。子どものころから川遊びに明け暮れ、現在は川遊びの楽しさを子どもたちと共有するためにワークショップなどを精力的に行っている。1995年、デビュー作の『泣けない魚たち』(ブロンズ新社)で椋鳩十児童文学新人賞、坪田譲治文学賞をダブル受賞、その後も『らいぎょのきゅうしょく』、『おたまじゃくしのうんどうかい』『オグリの子』(ともに講談社)など絵本や児童書の世界で精力的に執筆活動を行っている。

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